更新が遅くなりすません。色々と忙しくて後回しになっています。
さて、この時期は次年度の予算要求を行っていく施設が多いと思います。やはり微生物検査室の目玉は「質量分析機器」ではないでしょうか。
オーバーナイトでしか菌種同定できなかったのに、数分で終わってしまうという、寝台特急でしか行けない場所をリニアモーターカーで行くような、まさに夢のような機械なので欲しいと思っている施設は多いと思います。質量分析機器については、販売メーカーさんのPRや各種学会、勉強会でも質量分析機器の有用性について話を聞く機会が多いと思いますが、有用なのは十分理解していると思います。
じゃ、購入してランニングすると患者に大きなメリットがあると思い、買ってやろうという人が現れるのを待つのですが、現実はそう甘くありません。なんせ「高い」。マンションが1件買えるほど。ランニングコストが大幅下がるのでという売り込みも無用と思われるほど高額です。そのため、市中病院の予算内で購入しようと思うとかなりハードルが高くなります。恐らく市中病院の機器購入のための予算は大学病院検査部の機器予算と同じくらいですしね。病院の建て替えや巨大な力が動かない限りそんなにポンポンと買うことはできないでしょうね。
質量分析機器をどのようにすると買ってくれるのか?少し考えたいと思います。
1.ランニングコストが下がることの魅力をアピールする
確かに異常なくらいコストダウンが図れるのは確かである。
同定キットやパネルを使うと1回分は2000円ほどかかるとして、質量分析機器では100円程度。単純計算で1900円/1菌種のコスト削減が可能です。
例えば、検査依頼が1ヶ月1000件、感受性率が30%として。1ヶ月57万円、年間684万円の削減になります。感受性を別途行うランニングコストが1000円として1ヶ月27万円、1年間324万円になります。年間324万円貯金して9年程度で完済できます。
しかし、ランニングコストが下がるとは言うが、そんな高い買い物は直ぐにできる訳ではありません。例えばプリウスは少し高いけどガソリン代が浮くから買いに行こうって言っても、見積もりを見ると、買えないよねってなりますよね。しかし、ランニングコストが下がるのはアピールポイントの一つです。
プリウスも車体が安くなれば良いですけどね。
この場合に必要な知識としては、年間の件数や今後の見通し、物品の購入代金などを元々管理しておくと良いと思います。いつまでも物品担当部門に任せっ切りではいけません。
2.維持費の計算
・電気代は恐らく1件あたり30-50円。
・消耗品費は上記参照。ここに質量分析の試薬代と消耗品費が加わります。
・保守点検料は保守を結ぶかどうかで異なる。
特に保守を結んだ場合のメリットと結んでない場合のデメリットはしっかりと記載する必要があります。
保守を結んだ場合:安心して使える。保守の範囲内での故障が無料で受けれる。ただし保守範囲外の場合は有償。
保守を結んでない場合:壊れなければラッキー。お金がかかりません。しかし壊れるとかなり高額な請求がかかります。技術料や出張料に加えて高額な部品代。まさに高い技術の裏には高い人件費と材料があります。
日本に導入されて、まだ時間が経っていないので故障リストは殆どありません。故障しない機械に高額な保守費用を投じることになると言われかねません。この辺はメーカーとの交渉でしょう。
保守料が200万円とすると324万円から200万円引くので、残った貯金が124万円になります。
さらにレーザーを5000万ショット撃つと交換が必要です。窒素レーザーの交換費用はかなり高額ですが、窒素レーザー自体は簡単なものですので意外に安いようです。何が高いんでしょうかね。
3.アウトカムの計算
一番問題なのは、導入にあたり新規で保険点数が付かないこと。
通常、新規で購入する機器の場合は要求時に増収見込みがどの程度あるのかアピールタイムがありますが、これは全く期待できません。もともと、培養・同定で保険点数が付いており、同定まで進まなくても収入があります。そのため、同定のみで保険点数を計算して、収入について検討しようとしても無理が生じます。つまり使用頻度に応じた計算(前述)が必要になります。
自動機器のランニングコストは意外に高い
なのでここでバックアップデータとして必要なのは入院期間の短縮や抗生剤の処方量削減、死亡率低下などなど。
下記の文献によると、
・入院期間は23.3±21.6日(導入前)→15.3±17.3日(導入後)
・30日後の死亡率(菌血症?)は21%(導入前)→8.9%(導入後)
・医療コストは7.8万ドル(導入前)→5.2万ドル(導入後)
と削減が可能だそうです。ただし外国のデータです。
では、日本のデータはどうか? 探した限りではありません。
導入したので、どうでしょうか?というデータは多いのですが、今後先駆者たちから出てくることを願います。
先駆者? そうです。当院には残念ながらありません。市中病院ですので、そんなお金は準備しようにも院内の優先順位はまだまだ上位機種ではありません。そりゃ、CTやMRI、内視鏡を新規で購入する方が利用頻度も高いし、増収見込みも上がるのでガチで戦っても勝ち目がありません。
先日、mecA遺伝子導入によるコスト削減を検討していますが、質量分析機器の大きなメリットはグラム陰性桿菌の種類が直ぐにわかることです。グラム陰性桿菌は菌種により自然耐性を持つので菌種同定が早くなるだけでもメリットは大きいと思います。
ただし、重症患者や発熱性好中球減少症患者においては既に耐性菌のことを考慮して抗生剤が選択されていることもあり、大きなアウトカムが変わることは無いと思います。
どちらにしても報告を早くすることに加えて介入をすることが大きなメリットとなるでしょう。
4.どうしたら買えるか?
関西人である私は私生活において根切り交渉をしてきましたが、この機器は値引きが見込めません。だったらどうしようか?
関西人は全て値切る訳ではないそうです
個人的に宝くじが当たれば即購入ですがそうは行きませんね。
感染症に造詣のある医師を確保するのが良いかと思いますが、日本に感染症医は1500人程度。全ての病院には常駐していません。感染防止対策の一貫として周囲の方々に協力してもらいながら導入までこじつけるしかありません。なので、感染症に興味のある医師を捕まえて離さないことが良いでしょう。
感染症に興味のある医師を確保することが必要ですが、医学生のうち感染症に興味がある生徒は1クラスに1人程度。全員が嫌いな学年もあると思います。
しかしどうして興味を持たないんですかね?不思議ですね。
しかし、感染症は日常的に遭遇しやすい疾患の一つです。しかも生活習慣病と異なり、適切に治療することで治る。適切に治療するにあたり微生物検査のデータは不可欠で、それをいかに早く適切にどう治療に絡めるのか考えることが大切です。
上記のデータで菌血症の死亡率(導入前)が20%とあるが、厳しいことを言うが単純に高すぎると思います。20%というデータすら取っていないところは質量分析機器への道は更に険しいものになると思うので、しっかりとクリニカルインディケーターをラボでも取ってアピールすることが重要かと思います。微生物検査に携わっている方たちはそのエビデンスを作っているので、そこに貢献すべきでは無いかと思いますがどうでしょうか?
そういっていますが、ここ数年予算申請をしていますが、うちにも入るでしょうかね。予算要求の回答が出る頃はもう少し先です。果報は寝て待て。
コスト計算やアウトカムの検討をしっかりと行い、質量分析機器をゲットしていきましょう。
ようやくポケモンもLv23になりました。20を超えてからは中々レベルアップするのに苦慮しています。皆さんのポケモンはどうですか?Lv50になって、ポケスポットをくるくるすると質量分析機器をくれないでしょうかねえ(笑)。